🩻 骨と関節の日 ― 体軸・心軸の再考と神経−内分泌−筋骨格系連関
日本ユニバーサルリハビリテーション協会
骨格・関節機能を再評価する機会として、日本整形外科学会をはじめとする複数団体が啓発活動を展開しています。
近年の生理学・神経科学の進展により、骨・関節は単なる構造支持体ではなく、神経−内分泌−免疫系の統合的調整因子であることが明らかになりつつあります。
本稿では、骨格機能と心身の軸性安定性との関連を、医療従事者の視点から再考します。
🦴 姿勢制御系と固有感覚 ― 抗重力筋系との協調
成人体幹はおよそ206個の骨と400以上の関節により構成され、その大部分は直立二足歩行に適応した動的安定機構として機能しています。
姿勢制御は、脊柱起立筋群・腸腰筋群などの抗重力筋系と、関節包内外に分布する固有受容器(関節位置覚・筋紡錘・腱紡錘)との協調によって成立します。
これらの感覚入力は小脳・延髄・前庭神経核・脊髄固有ニューロンを介して、立位制御・動的バランス・重心移動の微細な調整に寄与しています。
加齢や疾患によりこの機構が破綻すると、転倒リスク増加や運動制御障害だけでなく、情動面への波及が生じることが報告されています。
🧠 骨格系の内分泌機能 ― Osteocalcinと神経−内分泌系の接続
近年の基礎医学研究により、骨組織は内分泌器官(endocrine organ)としての機能を有することが明確になりました。
特に骨芽細胞(osteoblast)由来ホルモンであるOsteocalcin(オステオカルシン)は、以下のような作用機序が知られています。
- 視床下部−下垂体系を介した自律神経活動の調節
- セロトニン分泌促進による抗ストレス作用
- 糖脂質代謝・記憶機能への影響(骨−脳 axis)
この知見は、骨格系の維持が単なる運動機能ではなく、中枢神経機能や情動調整に関与することを示唆しています。
🧩 心理的軸と姿勢制御 ― 自律神経系との交錯領域
心理学的研究においても、姿勢制御と感情調節の双方向性は注目されています。
実験的には、猫背姿勢が交感神経優位と抑うつ気分を誘発し、背筋伸展が迷走神経活動の賦活および前向きな情動に関連することが報告されています。
この現象は、筋骨格系−自律神経系−情動調整ネットワークの交錯領域(interoception系)の理解にも通じ、リハビリテーション領域では身体介入による情動調整の可能性として臨床応用が進んでいます。
🪶 臨床的インプリケーション
- 骨格・関節・固有感覚の統合的アプローチは、転倒予防のみならず精神状態の安定化にも寄与しうる。
- 高齢者・神経疾患患者では、骨格系の破綻が身体的・情動的両面に波及する可能性がある。
- 骨内分泌機能(Osteocalcin)を考慮した骨代謝管理は、メンタルヘルスとの統合医療の一端を担う可能性。
骨格は構造物ではなく、情報を伝達し、情動を調整し、生体の軸を形成する統合器官である。