
汚染された空気が肺に害をなすことは広く知られている。では、脳にはどうだろうか。最新の研究で、大気汚染が、ある代表的なタイプの認知症のリスクを高める可能性が示されている。(参考記事:「PM2.5などでの肺がんが世界で増加、台湾では患者の2/3が非喫煙」)
対象となる認知症:レビー小体が関わる認知症

それは、「レビー小体型認知症」と「パーキンソン病認知症(認知症を伴うパーキンソン病)」だ(編注:以下では2つのタイプをあわせて「レビー小体が関わる認知症」と呼ぶ)。
- どちらも、「$\alpha$(アルファ)-シヌクレイン」というタンパク質を主な成分とする「レビー小体」という塊が脳内に過剰に蓄積し、健康な細胞に広がって死滅させることで引き起こされる。
- 厚生労働省によれば、日本ではアルツハイマー型、血管性に次いで3番目に多い認知症である。
研究の概要と結果:「最も説得力のある証拠」
研究チームは米国の入院患者の記録5600万件を分析した。
PM2.5への慢性曝露とリスク
その結果、PM2.5(直径2.5マイクロメートル以下の微小な粒子状物質)に慢性的にさらされていた人々は、レビー小体が関わる認知症の入院リスクが高かったことが明らかになった。
科学的メカニズムの示唆
今回の研究では、大気汚染が有害な$\alpha$-シヌクレインの蓄積にどう影響しているのかについて、可能性のあるメカニズムが示されている。
- 実験では、PM2.5によって、$\alpha$-シヌクレインから新たな物質ができることが判明した。
- この物質は、レビー小体が関わる認知症の患者に見られる異常な$\alpha$-シヌクレインに非常によく似ているという。
「私たちの研究は、一般的な環境汚染物質とレビー小体が関わる認知症との間に存在しうるメカニズムを示した最初の研究の一つです」
— 論文の共著者、米コロンビア大学の生物統計学准教授 シャオ・ウー氏
専門家の評価
カナダ保健省の環境衛生研究員ホン・チェン氏は、研究結果の**高い一貫性**と、さまざまな側面からの知見の結びつき(「三角測量」)に感銘を受けたと述べている。
「私の知る限り、PM2.5とレビー小体が関わる認知症との関連を示すものとして、これまでで最も説得力のある証拠です」
— カナダ保健省 環境衛生研究員 ホン・チェン氏
このタイプの認知症の発症メカニズムが解明されれば、治療法や治療薬の開発に一歩近づけるかもしれない。

関連性の証拠と疫学データ
- 対象と方法: 米国の入院患者の記録5600万件という大規模なデータを分析し、PM2.5(直径2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質)への慢性的な曝露と、レビー小体が関わる認知症(レビー小体型認知症およびパーキンソン病認知症)の入院リスクとの関連を調査しています。これは疫学研究の一種です。
- 結果の信頼性: 研究結果の高い一貫性と、さまざまな側面からの知見の結びつき(三角測量)により、専門家(ホン・チェン氏)から「これまでで最も説得力のある証拠」と評価されています。
2. 生物学的メカニズムの可能性
記事は、大気汚染が認知症リスクを高める可能性のあるメカニズムについても言及しており、これは自然科学(生化学・病理学)的知見に基づいています。
- レビー小体: レビー小体が関わる認知症の病理学的特徴は、$\alpha$-シヌクレインというタンパク質が異常に凝集・蓄積し、レビー小体という塊を形成し、それが神経細胞の死滅を引き起こすことです。
- PM2.5の影響: 実験により、PM2.5が**$\alpha$-シヌクレインから新たな物質を生成**させることが判明しました。
- 病理学的類似性: このPM2.5によって生成された物質は、実際に患者に見られる異常な$\alpha$-シヌクレインに「非常によく似ている」とされています。
- 科学的示唆: これは、PM2.5が脳内に侵入するか、あるいは全身の炎症などを介して、$\alpha$-シヌクレインのミスフォールディング(異常な立体構造への変化)や凝集を直接的または間接的に促進する可能性があることを示しています。これにより、レビー小体の形成と脳内での病理の伝播が加速されると考えられます。
🧠 レビー小体が関わる認知症について

疾患の概要
- 定義: レビー小体型認知症(DLB)とパーキンソン病認知症(PDD)を指し、日本国内ではアルツハイマー型、血管性に次いで3番目に多い認知症です。
- 病理: 脳内の神経細胞にレビー小体が過剰に蓄積することが特徴です。レビー小体の主成分は**$\alpha$-シヌクレイン**というタンパク質の線維状凝集体です。
- 症状: 認知機能障害に加えて、幻視、認知機能の変動(良いときと悪いときがはっきり分かれる)、パーキンソン症状(振戦、動作緩慢、歩行障害など)、レム睡眠行動障害などが特徴的です。
$\alpha$-シヌクレインの病理学的役割
$\alpha$-シヌクレインは通常、神経終末に豊富に存在するタンパク質ですが、何らかの理由で異常な構造を取り、オリゴマー(少数の分子の凝集体)や線維を形成し始めます。これらの異常な凝集体が神経細胞にとって毒性を持つと考えられています。
🌬️ PM2.5と神経毒性のメカニズム(補足)
大気汚染物質が脳に影響を与える経路として、主に以下の科学的な仮説があります。
- 嗅覚経路による直接侵入: PM2.5やその成分が、嗅上皮を通過して嗅球や脳幹に直接運ばれる経路。
- 血液脳関門(BBB)を介した侵入:
- 間接的: PM2.5が肺胞に入り、そこで全身性の炎症を引き起こし、炎症性サイトカインなどが血流を介して脳に到達し、BBBの機能不全を引き起こす。
- 直接的: ナノ粒子などの超微細な粒子が血流に乗り、BBBを通過して脳組織に直接侵入する。
- ミトコンドリア機能障害と酸化ストレス: 大気汚染物質が脳に入ると、酸化ストレスを増大させ、神経細胞内のミトコンドリア機能を障害し、細胞死を促進する可能性があります。この酸化ストレスや炎症が、$\alpha$-シヌクレインの異常な凝集を誘発する一因となる可能性が示唆されています。
この研究は、PM2.5が「$\alpha$-シヌクレインから新たな物質をつくる」という特異的な生化学的反応を示しており、上記の一般的なメカニズムに加えて、特定のタンパク質病理に直接関与する強力な証拠を提供するものです。
💡 ユニリハの理念との関連性
ユニリハの理念である「自然科学をベースにした相対性医療」の視点から見ると、今回の研究は以下の点で重要です。
- 環境と身体の相互作用: 大気汚染という「環境因子」が、脳という「生体システム」に作用し、特定の病理($\alpha$-シヌクレイン凝集)を引き起こすという、環境と生体の相互作用を示す科学的証拠です。
- 全身的アプローチの重要性: ユニリハが全身の筋緊張制御を目指すように、この研究は、肺という局所的な器官に留まらない、大気汚染の全身的・神経的な影響を浮き彫りにしています。環境因子による全身の恒常性の乱れが、脳という中枢器官の病理に繋がるという知見は、全身性・包括的なリハビリテーションの必要性を支持する側面があります。
大気汚染と認知症の関連についての追加情報や、ユニリハのポジショニングR.E.D.について、さらに科学的な詳細が知りたい点があれば、お気軽にお尋ねください。
