🚀 人類はふたたび月に降り立つ

人類が月で持続的に活動する時代の とびらを開く 「アルテミス計画」

アメリカは現在、2名の宇宙飛行士を2024年に月面に着陸させる「アルテミス計画」を主導している。2020年10月13日、この計画に参加する8か国が宇宙探査のためのガイドライン「アルテミス合意」に署名した。各国が思いえがく、月探査の展望をレポートする。

協力 筒井史哉 宇宙航空研究開発機構(JAXA)国際宇宙探査センター・センター長

 

宇宙開発

 

アメリカ、イタリア、オーストラリア、カナダ、日本、ルクセンブルク、アラブ首長国連邦、イギリスの8か国は2020年10月13日、「アルテミス合意」に署名した。この合意は、国際月探査プロジェクト「アルテミス計画」の参加国が尊重すべき13の項目からなる。平和的な目的で月探査活動を行うことや、月の資源利用を適切に行うことなどがうたわれている。ただし、この合意は、各国の共通認識を示すことを目的とした政治的宣言で、法的強制力はない。

 

半世紀ぶりに月をめざす 「アルテミス計画」

 

1969年にアメリカのアポロ11号が史上はじめて有人月面着陸に成功した。それから1972年までの4年間で計6回の月面着陸が行われ、計12人の宇宙飛行士が月に降り立った。この「アポロ計画」以降、人類は50年近く月を訪れていない。

そこで、ふたたび人類を月に送りこんで、地球外の天体で持続的に活動するための技術を確立し、最終的には有人での火星着陸をめざそうという野心的なプロジェクトが立ち上がった。それがアルテミス計画だ。

アルテミス計画のかぎとなるのが、「ゲートウェイ(月近傍有人拠点)」だ。 現在、宇宙飛行士は、地球の周囲をまわるISS(国際宇宙ステーション)に滞在し、活動を行なっている。ゲートウェイは、いわば「月のISS」として機能し、地球と月を行き来する際の、月の「玄関口」としての役割をになう。

地球から月への玄関口となる「ゲートウェイ」の完成予想図 右端の太陽電池パネルをもつモジュールが最初に打ち上げられる電力推進モジュールで、それ以外の各モジュールも順に打ち上げられ、接続される。左端にえがかれているのがオリオン宇宙船だ。

宇宙飛行士は、新型宇宙船「オリオン」に搭乗して、ゲートウェイに向かう。その後、ゲートウェイ上で月着陸船「HLS」に乗りかえ、月面への着陸を行う。月面での活動を終えた飛行士は、ふたたびHLSでゲートウェイにもどり、オリオンに乗って地球に帰還する計画だ。

今のところ、2024年の月面着陸までに、3回のミッションが予定されている。

  1. 2021年の「アルテミスI」では、無人のオリオンで地球と月の往復試験が行われる。

  2. つづく2022年の「アルテミスII」では、実際に宇宙飛行士をオリオンに搭乗させ、月の裏側をまわり地球に帰還させる試験を行う。これと並行して、ゲートウェイの建設を開始する。

  3. そして2024年の「アルテミスIII」で、2名の宇宙飛行士がHLSで月の極域に着陸し、約6日間にわたって月面で活動する計画だ。この2名は、「The first woman and the next man」だと発表されている。これは、「宇宙飛行士としてはじめて月面に降り立つ女性と、アポロ計画につづいて月面に立つ男性」という意味だ。

2025年以降は毎年1回程度、宇宙飛行士の月面探査ミッションが行われる。さらに、観測装置などを月面に送りこむ「CLPS」というミッションも行われる予定だ。また、2020年代後半からは、月面に「アルテミス・ベースキャンプ」とよばれる基地が建設される。

 

民間と国際

 

月着陸船「HLS」(右上) に搭乗して月面に着陸し、探査活動を行う宇宙飛行士たちのイメージ。HLSはブルーオリジンやスペースXなど3社が研究開発を進めている。

これほどの巨大プロジェクトにもはや予算的にもNASA(アメリカ航空宇宙局)単独で実行することはできない。「そのため、アルテミス計画では当初から、民間と国際という二方面のパートナーと共同して計画を進めることがうたわれています」。そう話すのは、JAXA国際宇宙探査センターの筒井史哉センター長である。

  • アルテミス計画のうち、HLSの開発やCLPSは民間企業によって行われる。

  • オリオン宇宙船のサービスモジュール(太陽電池パネルがついている部分)はESA(ヨーロッパ宇宙機関)が開発を担当する。

  • ゲートウェイにはESA、JAXA、ROSCOSMOS(ロシアの国営企業)などが開発を担当するモジュールが接続される。

    • 日本はESAと共同で居住棟の開発を担当するとともに、「こうのとり(HTV)」の後継機によって物資補給も行う計画だ。

  • また、JAXAは、月着陸技術の確立をめざす小型月着陸実証機「SLIM」を2022年度の打ち上げを目標に開発を進めている。

2020~2030年代には、アルテミス計画に参画していない国々も月探査を行うことになるという。たとえば、2019年に「嫦娥4号」を世界ではじめて月の裏側に軟着陸させた中国は、今年中に「嫦娥5号」を打ち上げ、月の試料を地球にもち帰る計画を立てている。2023~2024年には、ISRO(インド宇宙研究機関)がJAXAと共同して月の極域を探査する「LUPEX」ミッションが計画されている。

 

持続的な月資源利用の ルールが求められている

 

人間が月面に長期滞在するためには、基地の資材や飲料水、燃料などを、ある程度は月で調達する必要がある。ところが、そのための天然資源を自由に採掘・利用してよいかという点で、各国の意見が一致していないのだ。「宇宙条約という国際法では、天体の領有禁止などは定められているものの、今のところ、資源利用については具体的な規定が存在しません」(筒井センター長)。

このように、さまざまな国や企業が続々と月をめざす時代に入ったが、心配な点もある。とくに考えなければならないのは、月の資源利用だ。

今回のアルテミス合意は、アメリカと近い考えをもつ8か国が、意見の集約をめざして、指針をいち早く打ちだした図式になっている。ほかの国々も、今後国内で意見がまとまれば合意に署名するとみられ、月という舞台で国際協力がうまくいくかどうかに注目が集まっている。

文部科学省は2020年10月23日、日本人宇宙飛行士を13年ぶりに募集すると発表した。具体的な募集要領は2021年秋に発表される予定だ。近い将来、日本人宇宙飛行士が月面に降り立つ日がくるかもしれない。

(執筆:中野太郎)

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